【孝平】「というわけで、毎回、消灯時間前にお茶会はお開きにしたいと思う」
【司】「どういうわけだ」
【孝平】「人の話は聞けよ!」
【かなで】「そうだよ」
【かなで】「こーへーが、花嫁の父にそうしろって言われたのだ! ばばーん!」
【司】「なるほど」
【孝平】「捏造するなっ!!」
【白】「あ、あうぅ……」
白ちゃんは真っ赤になっている。
【陽菜】「でも、やっぱり消灯時間は守った方がいいよね」
【陽菜】「お姉ちゃんも寮長なんだし、ちゃんとしないと」
【瑛里華】「そうねえ」
【孝平】「しかも、風紀委員長なんだろ」
【かなで】「ぶーぶー、わたしだけ責めるなー」
今日もにぎやかなお茶会。
俺から健全なお茶会にしようという提案をしたところだ。
赤いままの白ちゃんが、小さい声で言う。
【白】「あ、あの、支倉先輩」
【白】「兄さまのことはおいておいた方がいいような……」
【孝平】「うーん、そうだな」
【孝平】「まあつまり、生徒会役員とか寮長とかがいるわけだし」
【孝平】「他の生徒に『真似をしました』って言われたときに、申し開きできないことはやめようと」
【司】「ま、孝平がそうしたいならそれでいいさ」
【孝平】「すまん」
【陽菜】「ううん、私たちも孝平くんの部屋で騒ぎ過ぎちゃってたもんね」
【瑛里華】「真似をされて困らないように、という話はもっともだわ」
【瑛里華】「じゃあ、これからはそれでいきましょ」
【かなで】「よーし、じゃあ……」
かなでさんが、グッドアイディアを思いついた! みたいな顔をする。
【かなで】「早起きして、早朝お茶会だ!」
【かなで】「って、消灯時間は決められてるけど、朝早いのはいいのかな?」
【孝平】「知らないで言ってたんですか!」
【かなで】「消灯時間の反対だから……仮に『点灯時間』として」
【かなで】「えりりん、知ってる?」
【瑛里華】「あ、えーと」
【瑛里華】「……ごめんなさい」
風紀委員長に続き、生徒会副会長も撃沈。
【司】「俺は知らんぞ」
【孝平】「期待してない」
【陽菜】「部活で朝練がある人もいるよね」
【陽菜】「早い人だと、7時前には寮を出てるみたいだよ」
【孝平】「そんなに早いのか……」
でも、点灯時間がわかる情報ではない。
【白】「あの……」
【孝平】「白ちゃん、知ってる?」
【白】「ローレル・リングの活動で、早朝から礼拝堂に行くことがあるんです」
【白】「寮監のシスターが、その時におっしゃっていました」
【かなで】「何時なのー?」
【白】「毎朝5時に、シスターが玄関の鍵を開けるそうです」
【司】「すげえな」
【陽菜】「毎朝その時間にシスター天池は起きてるんだ」
【かなで】「じゃあ、早起きのまるちゃんに負けずに、朝5時からお茶会だね!」
【孝平】「健康的すぎます!」
【瑛里華】「ちょ、ちょっと厳しいかも……」
【司】「むしろ苦行だ」
【陽菜】「私も、温かいベッドの方がいいかな」
【孝平】「そもそも、かなでさんは起きられるんですか?」
【かなで】「無理っす」
全員ずっこける。
【かなで】「というわけで、消灯時間にはちゃんとお開きってことでー」
一応、みんな茶化しながらも話を聞いてくれて、そういうことになった。
【孝平】「でも、ローレル・リングってそんなに朝早くから活動してるんだな」
【白】「ええ。礼拝堂から見る朝焼けはとても綺麗でした」
【瑛里華】「そうか、日の出が見えるんだ」
【陽菜】「運動部より早いよね」
【白】「自由参加なんですが、シスターはいつもいらっしゃいます」
【孝平】「何してるんだろ」
【白】「お祈りと、あとはハーブ園のお世話などをしているそうです」
【陽菜】「ハーブ園って、シスター天池が?」
【白】「ええ。何種類か育ててらっしゃいます」
【白】「本当は畑を耕して、神の恵みを実感するために自足するのが理想だと仰っていました」
【白】「シスターはとても敬虔な方なのです」
心から尊敬するように、白ちゃんは言う。
先日は、神社で舞うと言っていた白ちゃん。
その白ちゃんが礼拝堂での奉仕活動もしている。
全然違う宗教に関わっているような気もするけど、きっと白ちゃんの中では矛盾しないのだろう。
【司】「シスター天池が真面目なのは、よく知ってる」
【孝平】「だろうな」
【かなで】「へーじは、目つけられてるもんね」
【司】「説教という名のカウンセリングも受けた」
【瑛里華】「じゃ、このお茶会も目をつけられないようにしなくちゃね」
【孝平】「というわけで、今日はお開き」
【かなで】「次回はしろちゃんとこーへーのあやしい関係についてだよ」
どっと皆が沸く。
そのまま食器を片づけ、解散という流れになった。
ちゃんと消灯時間前。
皆が靴を履いて部屋を出て行く。
……が、白ちゃんだけが残っていた。
【孝平】「どうした?」
【白】「あ、あの……」
まだ顔を赤くしている。
【かなで】「花嫁の父にそうしろって言われたのだ!」
あ。
あれか。
気にしちゃってたんだな。
【孝平】「かなでさんだろ」
【孝平】「あまり気にしなくていいさ。場を盛り上げようとしてああ言っただけだよ」
【白】「そ、そうなんですか……」
ん?
【白】「あ、いえ、いいです」
【白】「それでは、おやすみなさい、支倉先輩」
【孝平】「ああ。おやすみ」
ばたん
……まったく、かなでさんにも困ったものだ。
【孝平】「困った、困った」
もやもやを吹き飛ばすように、ひとりごちた。